第一歩の関わりが育む関係人口の入り口〜日本関係人口協会 第4回オンラインセミナー開催レポート

2025年9月8日(月)、日本関係人口協会の第4回オンラインセミナーを開催。ゲストは永岡里菜氏(株式会社おてつたび 代表取締役CEO)。「おてつたび」というマッチングプラットフォームを通じて、地域の短期的・季節的な人手不足と、地域に行きたい人をつなぐ活動を続けてきた実践者です。

今回は永岡氏の講演と、同協会理事の指出一正とのクロストークで構成。「第一歩の関わりが育む関係人口の入り口」をテーマに、地域との関わり方の新しいあり方についてお話しいただきました。

目次

おてつたびが生まれた背景

故郷への愛から始まった創業

「日本各地の地域が少しでも多く、次世代に残る未来を作りたい」という思いで立ち上がった「おてつたび」。永岡氏が三重県尾鷲市(人口1.6万人、高齢化率45%)出身であることが、創業の最も大きな理由です。

東京から6時間かかる漁業と林業の街。「どこそこ?」と言われがちですが、「尾鷲に魅力がないなんてことは一切ない。来てもらえたらわかってもらえる魅力がたくさんある」と断言します。

「誰かにとって特別な地域を喪失する」をミッション

2018年の創業時から変わらないミッション。誰しもが居住地と出身地以外にも好きでたまらない地域を2〜3個持てる未来を作ることで、一人が何役にもなりながら、人・もの・お金を日本全体で巡らせていけないかという大きな野望を掲げています。

おてつたびの特徴

シンプルなマッチングの仕組み

地域の短期的、季節的な人手不足で困っている収穫時期の農家さんや、ハイシーズン時の旅館・ホテルさんのお手伝いをしながら旅ができるプラットフォーム。

二つの特徴

  1. アルバイト代が得られるので、地域に行く際の旅費交通費を気にせず行ける
  2. お手伝いという新しい旅の目的で、まだ知られていない地域にも人が訪れるきっかけを作り、役割をもらって地域に入り込むことで関係性が育みやすい

レビューが育む信頼関係

「レビューがたまればたまるほど、すごく人がマッチングするようになる」と永岡氏。レビューが高いところは知名度が高いところでも、時給をすごく上げられるところでもなく、地域の皆さんの温かさや「また会いたい」という思いが反映されています。

多様化する参加者と成果

Z世代からアクティブシニアまで

半分くらいは10代、20代を中心としたZ世代の大学生が中心ですが、最近はシニアの方の利用も急増。2021年は7割が10代20代だったが、より多様化が進んでいます。

若い世代の動機:自己実現、いろんな経験、地方創生への関心、自分でも活躍できる場を求める シニア世代の動機:これまで培ってきたものを貢献したい、役に立ってありがとうと言われるのが嬉しい

移住につながる具体的成果

現在、全体の6割くらいの方がおてつたび先のお客さんになったり、マイクロインフルエンサーとして宣伝してくれる存在に。実際の移住事例も続々と報告されています。

  • 山形県の西川町:4、5十人がお手伝いきっかけで移住
  • 徳島県の鳴門市:お手伝いきっかけで早期退職して移住した50代
  • お手伝い先に就職、結婚して地域に根ざした生活を始めた方々

クロストークでの深い洞察

時代の変化を捉えたサービス

創業から7年間で「関係人口というところも含めて、すごく変わってくるとは当時思っていなかった」と振り返る永岡氏。当初は「なんで旅先で働かなきゃいけないんだ」と言われたものが、今では働き方も旅行のあり方も多様化し、受け入れられるように。

「勝手口から入る」関係人口

指出氏が「勝手口から入るのが大事だ」と表現したように、正面玄関ではなく、より自然で親しみやすい関わり方から始まる関係人口の重要性が浮き彫りに。「おてつたび」はまさにその勝手口としての役割を果たしています。

ゲストへの共通質問。3つの問いへの回答

Q.永岡さんにとって「関係人口」とは? 

A.「地域に労働力なのかお金なのかものなのか情報なのか、何かしら一つでもいいので、地域に入ってくる形での関わり方をしてくださる皆様」

Q.なぜ今、関係人口が必要? 

A.「人が減っていく中での物理的にもう人が足りないという課題感が真っ先に来るのがやはり地域。人も物もお金を地域内だけではなくて地域外の人とどうしっかり回していけるかが、とても大事なキーワード」

Q.関係人口が広がった先の未来は? 

A.「純粋に関わる側からしてもすごく豊かな人生になる。未知の世界と出会えたり、つながりがあって、役割があって、感謝される。地域も存続するし、関わる人にとっても豊かな人生がつながっていく」

まとめ

三重県尾鷲市への愛と、「次世代に残る未来を作りたい」という強い思いから生まれた「おてつたび」。7年間の実践を通じて、カジュアルな入り口から始まる地域との関係性が、やがて移住や結婚、起業といった人生の大きな転換点につながる可能性を実証してきました。

永岡氏の「勝手口から入る」という表現通り、お手伝いという気軽な形から始まった関係が深い絆に発展する多くの事例は、関係人口の「第一歩」としての重要性を物語っています。指出氏が評したように、永岡氏の人柄の温かさがサービスに反映され、多くの人と地域を結び続けています。

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