たとえば、離れた観光地や医療の拠点へ向かうとき、空を使う移動が選択肢になったら、地域の暮らしや仕事には何が必要になるでしょうか。期待だけでは、離着陸する場所も、機体を整備する人も、住民との合意も整いません。兵庫県と神戸市は、空の移動を地域産業として考える計画をまとめました。自分の地域なら、どの課題から確かめるべきでしょうか。
要点3つ
- 兵庫県は2026年10月30日、神戸市と共同で「航空機」と「空飛ぶクルマ」の2分野の地域産業クラスター計画を策定し、国の地域未来戦略に関する会議で報告したと発表しました。
- 空飛ぶクルマ分野は、神戸市、姫路市、洲本市、豊岡市、南あわじ市、淡路市をクラスター形成の核となる区域に位置づけ、機体の開発・製造・整備、運航サービス、離着陸場の整備を産業領域に挙げています。
- 同分野の2030年度目標は、官民設備投資額99億円、付加価値増加額79億円、産業人材育成数147人。2028年の商用運航開始を目指すとの記述もありますが、いずれも計画上の目標で、運航開始や成果が確定したわけではありません。
概要――「飛ぶ」だけでなく、つくる・整える・話し合う
兵庫県と神戸市が共同策定した計画は2本です。航空機分野では、神戸市、尼崎市、明石市、高砂市を含む阪神・播磨臨海地域を核として、製造や整備などの産業集積を育てます。一方、空飛ぶクルマ分野では、観光地や空港などのアクセス拠点を見据えた離着陸場・充電設備・格納庫などの整備、製造・整備や人材育成を含む関連産業の形成を掲げています。
空飛ぶクルマの計画は、救急医療や災害対応といった公益性の高い使い方を検討することも政策手段に含めています。また、自治体や地域コミュニティとの連携、運航に必要な申請に向けた事業者支援、県内事業者との商談などを挙げています。救急搬送や災害対応に実際に使われることが決まったという発表ではありません。
数字の読み方も重要です。設備投資99億円は計画が掲げる官民の投資額、147人は育成を目指す産業人材の数です。住民が利用できる便数や運賃を示す数字ではなく、2030年度までにどれだけ地域の産業基盤を築けるかを見るための目標です。県は詳細版の計画と企業リストを後日、国・県のサイトで公開する予定としています。
地方創生への意味――新しい乗り物の前に、地域の基盤
ここからは協会の解釈です。空の移動を地域政策として見るなら、旅客サービスの実現可能性だけでなく、製造・整備・建設・人材育成の仕事が地域に根づくかが論点になります。住民には安全性や騒音、既存交通との関係、自治体には場所とルールの調整、地域事業者には参入できる工程と必要な技能が関係します。計画の策定はその検討の起点であり、交通空白の解消や経済効果が実証されたという意味ではありません。
自分の地域に置き換えると
たとえば、空港から観光地までの移動が課題の地域なら、新しい移動手段を考える前に、現在の所要時間、利用者数、運行日、費用、既存の公共交通との接続を数えてみることができます。これは仮の検討例で、兵庫県内の特定路線で空飛ぶクルマが就航するという意味ではありません。同時に、整備や部品加工に参入し得る地元企業、必要な認証や人材育成の課題を調べると、移動と産業の両面から議論できます。
自治体・地域事業者が確認したい行動
- 計画と確定事項を分ける:自治体の産業・交通担当は、概要版にある対象区域、2028年の運航目標、2030年度の投資・人材目標を一覧にし、事業化決定や就航予定と混同しない説明を用意する。
- 暮らしとの接点を測る:交通・観光担当は、候補となる移動区間ごとに現在の所要時間、運賃、運行頻度、利用者数を確認し、住民の日常移動と来訪者の需要を分けて検討する。
- 地域側の条件を聞く:離着陸場を検討する場合は、自治体の都市計画・防災担当が地域住民や既存交通事業者と、安全、騒音、土地利用、緊急時の運用について議論する手順を確かめる。計画概要に示された候補や事業者の取組を、施設完成と扱わない。
- 仕事の入口を探す:県内の製造・整備・建設事業者や教育機関は、公開予定の詳細版を待ちつつ、自社の加工・品質管理・人材育成の能力と不足する認証を棚卸しする。投資額や育成人数は目標として経過を追う。
一次資料
兵庫県「地域産業クラスター計画の策定」
兵庫県・神戸市「空モビリティ分野(空飛ぶクルマ)における地域産業クラスター計画の概要」
兵庫県・神戸市「空モビリティ分野(航空機)における地域産業クラスター計画の概要」
発表日:2026年10月30日
発表主体:兵庫県

