子どもたちこそが、関係人口の次の担い手かもしれない
月曜の夜に150名を超える参加者が全国からオンラインで集まった、日本関係人口協会の第9回セミナー。代表理事・指出一正の最新著書『オン・ザ・ロード2 スーパーウェルビーイング』をテキストに据えた新シリーズの幕開けとなった今回のテーマは、「ヤング関係人口」。ゲストには、「保育園留学」の発起人として北海道・厚沢部町を拠点に活動する、株式会社キッチハイク代表取締役CEOの山本雅也さんをお迎えしました。子どもが主役の関係人口とはどういうことか──1時間にわたる対話は、地域の未来と子育ての可能性を重ねて問い直す、温かくも示唆に富んだ時間となりました。
「ヤング関係人口」という言葉の誕生
「ヤング関係人口」というキーワードは、指出さんが自宅のキッチンでヤングコーンの缶詰を見つめながらひらめいた言葉だそうです。二拠点生活を送る中で、家族と離れて東京で過ごす夜のこと。その些細なきっかけから生まれた言葉には、しかし深い問いが込められています。
これまで「関係人口」といえば、アンケートの対象が18歳以上に設定されることも多く、若者世代や働き盛りの世代が想定されがちでした。でも、もっと幼い頃から地域と触れ合うことが、地域に興味を持つ最初の一歩になるのではないか。そんな着想から生まれたのが、「ヤング関係人口」というコンセプトです。
指出さん自身、息子さんが5歳や7歳の頃から、自身の趣味である釣りに付き合わせる形で秋田や熊本へよく連れ出していたといいます。秋田への3度目の旅で、レンタカーが空港から走り出した瞬間に、息子さんが「俺たちの秋田!」と叫んだ。「感極まって言っていた」とふり返る指出さんの表情に、あの日の感動がよみがえるようでした。それは、知らず知らずのうちに息子さんの心の中に「秋田」という場所が刻み込まれていたことを示す、小さくて大きな瞬間でした。
一生ものの可能性「Lifelong Gift」としての保育園留学
山本さんが「保育園留学」をスタートしたのは2021年、コロナ禍のさなかのことです。1〜2週間、家族で地域に滞在し、地元の保育園に通う留学プログラムです。その原点は、山本さん自身の子育ての切実な体験にありました。
横浜で共働きをしながら娘さんを育てていた当時、待機児童の問題でなかなか希望の保育園に入れない日々が続きました。一時的に通っていたのは高層ビルの間を歩くような商業施設の一角。「このまま6歳まで続くのかと、背筋が凍るような思いで毎日過ごしていた」と語る山本さんが、ある夜中に検索してたどり着いたのが、北海道・厚沢部町の認定こども園「はぜる」の写真でした。
「雷に打たれたような感覚で、ここに娘を通わせてあげたいと思った」。そのひと言が、保育園留学の出発点です。実際に娘さんと留学してみると、広い園庭や豊かな自然以上に印象に残ったのは、先生方の保育への向き合い方でした。決まったカリキュラムがなく、朝に子どもたちが集まって「今日何をするか」を話し合うところからスタートする主体保育のスタイル。先生たちはガードレールを作るように見守りながら、子どもたちの自発性を引き出していきます。
「都会の保育園が悪いのではなく、物理的な制約や子どもの数が多い環境の中では管理的にならざるを得ない。でも地域の保育園には、保育を超えた何かがある」と山本さんは言います。その体験が、娘さんの言葉の数を一気に増やし、動きを生き生きさせました。2歳の子どもの中に潜在していた可能性が、地域の環境の中でふっと解き放たれたのです。
現在、保育園留学は全国80地域に広がり、14000人以上が利用するまでになりました。山本さんはこの事業を「ライフロングギフト」と位置づけます。0歳から9歳の間にどんな体験をしたかが、その後の人生に大きな影響を与える──そんな信念が、この取り組みの根幹にあります。
コミュニティが2つあると、世界が広がる
対話の中で山本さんが語った視点の中で、特に印象的だったのが「メタ認知」という言葉です。
「地域と言うと、非認知能力や自然体験の話になりがちです。もちろんそれも大事ですが、個人的にはメタ認知こそが子どもにとって大切なことだと思っています」。普段のコミュニティと地域のコミュニティ、この2つを知ることで、「こっちはこうだけど、こっちはこうなんだ」という視点が生まれる。1つしか知らなかった世界が、2つになることで急に立体的になる。それは、子どもの世界を根本から広げてくれるものだというのです。
指出さんの息子さんが高校2年生になった今、仲間と三陸の気仙沼を訪れ、東日本大震災のことを自発的に学びに行くようになったエピソードも、この文脈で語られました。地域に連れて行き続けることで植えた「種」が、10年以上の時間をかけて花開いたのかもしれません。
「ここではないどこか、というものがあることを知っていること、それはもう知性ですよね」と山本さん。これに深くうなずいた指出さんは、「10年後に選挙権を持った時に、地域に興味を持っている人が増えている社会の方がいい」と続けました。ヤング関係人口というコンセプトが目指しているのは、実は10年後・20年後の地域の姿なのかもしれません。
まとめ──地域への関わりは、早いほど良い
「関係人口とは、人生そのものだと思います」──最後の共通質問「山本さんにとって関係人口とは?」に答えて、山本さんはそう言いました。人と人が関わることは人生そのものだから、と。
子どもの頃から地域と関わること、そして子どもの頃から知らない誰かと出会い、知らない場所を自分の一部として感じることは、単なる「体験」を超えた何かを育てるものではないでしょうか。保育園留学という実践が示しているのは、子どもが地域の主役になれるということ、そして地域は子どもたちに応えるだけの豊かさを持っているということです。
ヤング関係人口という言葉は、地域の担い手問題を「今の大人」だけで解こうとすることへの、やさしい問い直しでもあります。未来に種を植えることを、今の私たちは意識できているでしょうか。

