「せともの」という言葉の向こうにある町

瀬戸の時間を歩く 第1回。土の質感のある器と、2029年10月1日 市制100周年へ、の文字。連載用イメージで実在資料の記録写真ではありません。
連載用に制作したイメージ画像です。実在する歴史資料・所蔵品の記録写真ではありません。

瀬戸の時間を歩く|第1回
2029年、市制100周年へ
対象年代:千年以上の産地の歴史と、1929年からの市の歩み

茶碗や皿を「せともの」と呼ぶ。この身近な言葉には、愛知県にある一つの町の名前が入っている。

しかも、「せともの」という言葉は、瀬戸で作られた器だけに使われるわけではない。瀬戸のやきものが各地へ広まり、その地名が陶磁器一般を指す呼び名にもなった。どこで作られたかを確かめずに使う言葉の中に、産地の名が残っているのである。[1]

その瀬戸市が、2029年10月1日に市制施行100周年を迎える。市が生まれたのは1929年。やきものづくりの始まりは、それよりずっと古く、千年以上前までさかのぼる。[2][4]

器の名前にまでなった町では、どんな人が働き、何を作り、どんな暮らしを続けてきたのだろう。連載「瀬戸の時間を歩く」は、この問いから始めたい。

目次

海の向こうの器に学んだ

瀬戸市文化振興財団の発掘調査解説によると、現在の瀬戸市域で確認されている最古の窯は10世紀後半、平安時代中ごろのものとされる。いまの市の制度ができるはるか前から、この土地では窯が築かれ、やきものが作られていた。[2]

12世紀後期には、後に「古瀬戸」と呼ばれるやきものの生産が始まる。その手本になったのは、中国の青磁や白磁、朝鮮半島の高麗青磁など、海を越えて伝わった陶磁器だった。[3]

外国から来た器を見て、その形や表現を取り入れながら、この土地で作る。その後、古瀬戸は形や文様を多彩にし、日常の容器も量産されるようになる。各地に流通した器は、瀬戸から離れた場所の暮らしにも届いた。[3]

海の向こうから学んだ器が、瀬戸で作られ、日本の各地へ届く。古瀬戸の歩みには、土地の中で育つ技術と、遠くの土地との往来が重なっている。のちの瀬戸の歴史も、この二つの関係から読み進めることができる。

この連載で注目したいのは、外の世界との関係だ。手本になる器が入ってくる。作った器が外へ出ていく。瀬戸の歴史をたどるとき、町の中の仕事と、町の外の暮らしを一緒に見ていきたい。

市としての百年が始まった

やきものの長い歴史に、市としての時間が重なるのは1929年10月1日。瀬戸市は愛知県で5番目の市として誕生した。[4]

その翌年に制定された市の紋章には、「土」の字と「壺」の形が組み込まれている。新しい市が自分たちを表す印にも、ものづくりの土地であることが刻まれていた。[5]

やきものの歴史を支えるのは、完成した器だけではない。材料を用意する人、器を作る人、運ぶ人、売る人がいて、それぞれの暮らしがある。仕事の場を囲む道路や駅、商店や住宅まで視野を広げると、器の向こうに町が見えてくる。

現在の瀬戸市の範囲も、市制施行の時点で完成していたわけではない。戦後には水野村、幡山村、品野町との合併が続いた。いま同じ市名で呼ばれる土地にも、それぞれの村や町として過ごした時間が重なっている。[4]

だからこの連載では、窯元や商店街に加えて、住宅地や森にも目を向ける。古くから住んできた人にも、新しく住み始めた人にも、町の歴史につながる入口がある。

器から電車、お金、住まいへ

瀬戸には、食器の話から思いがけない方向へつながる歴史がある。

たとえば、製品を遠くへ運ぶための鉄道。戦争末期に作られ、結局は流通しなかった陶器のお金。海の向こうの家を飾った陶磁器の人形。いずれも、瀬戸と外の世界の関係が、具体的な物に表れた歴史である。[6][7][8]

それぞれの回では、当時の人が直面した条件を確かめたい。荷物をどう運ぶか。材料が足りないとき、何を作れるか。遠くの買い手が欲しがるものを、どう形にするか。昔の出来事にも、いま仕事や暮らしの中で考えることに通じる問いがある。

2029年に迎える市制100周年を前に、千年以上の産地の歴史と、その土地で続いてきた暮らしを読み直す。名の知られた人物の仕事とともに、運び、売り、住み、記録を残してきた人々の働きもたどっていく。

最初の手がかりは、食卓で使う「せともの」という言葉。その向こうにある町を知ることから、始めよう。

連載「瀬戸の時間を歩く」を一覧で読む

次回予告:「欲しい器は海の向こうにあった」。中世の瀬戸と、中国・朝鮮半島の陶磁器との関係をたどる。

出典・参考資料

  1. せと・まるっとミュージアム「瀬戸の楽しみ方―日本遺産のまち 瀬戸」(「せともの」の呼称。呼称の成立年代はここでは断定しない)
  2. 瀬戸市文化振興財団「折戸(O)-110号窯跡の発掘調査」(冒頭の瀬戸市域最古の窯に関する解説。折戸窯跡自体は日進市に所在)
  3. 瀬戸市美術館「古瀬戸の全貌―瀬戸焼の黎明と発展―」(古瀬戸の年代・外国陶磁の影響・流通)
  4. 瀬戸市「瀬戸市の概要」(市制施行と合併の経過。掲載ページの旧い現況人口は使用しない)
  5. 瀬戸市「市の紋章・木・花」(1930年制定の紋章)
  6. 名古屋市中区「お堀電車」(瀬戸の陶磁器輸送と鉄道)
  7. 国立公文書館アジア歴史資料センター「戦時中、陶器のお金が製造されたのはホント?」(陶貨の製造と未使用)
  8. 瀬戸市美術館「海を渡ったせとものたち」(戦後の輸出と復興)

資料確認日:2026年10月28日。アイキャッチは器と土の質感を表現した生成イメージです。実在する所蔵品・歴史写真の記録ではありません。

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